肉体が損なわれるとして

肉体が損なわれるとして、それは受け入れるほかないと思う。耐え難い苦痛は耐え難いから避けたいが、医療には限界がある。
昔から視覚や聴覚を失うことを恐れているが、いまや味覚や嗅覚、そして知性を失うことを恐れなければならない。こんな病気があるなんて思いもしなかった。

肉体が損なわれるとして、沈黙はしたくない、せめて。視覚や聴覚、知性を失ったとしても、語りを止めたくはない。文字は続く。

疫病を通じての新たな出会いはない。行政からの電話を待つだけだ。PCR検査を受けたクリニックでの二分ほどの問診は出会いと言えただろうか。

なんにせよ歴史を刻む脚韻に、なった。流行そのものだ。

全体主義や生権力を恐れる人は減ったように見える。どこもパワーやリソースを持ち得ないのだ。美しいハーモニーを掻き消す咳の音が聞こえる。

一般論として、肉体は常に損なわれる。

震えてはいない。