発生主義と現金主義と実現主義

安藤英義監修、中澤弘光・佐々木敏博・室井一夫著『基本簿記用語辞典〔六訂版〕』同文舘出版、2013年。

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収益の認識基準

収益をいつ、どのような状態のときに認識するかについては、基本的に、現金主義、発生主義、実現主義の考え方があるが、一般的には実現主義が適用されている。それは、次のような理由による。現金の収入をもって収益とする現金主義は、棚卸資産や固定資産の占める割合が大きくなり、信用取引が発達した今日、合理的な基準とはいえない。収益・費用の発生の事実に基づいて認識する発生主義は、費用の認識方法として最も合理的な基準とされるが、収益のそれとしては、経営活動に対応はするものの、販売するまでは予想の収益であり、不確実で客観性に欠ける短所がある。そのため収益の認識基準としては、生産された財貨や用役が販売され、対価として現金などの貨幣性資産を取得した時点に実現したとして、実現主義が原則として用いられている。ただし、例外として、工事進行基準、収穫基準などの発生主義によるもの、回収基準などの現金主義によるものも認められる。収益の額をいくらと測定するか(測定基準)については、過去、現在または将来のいずれかの収入額にもとづいて計上する。


発生主義

発生主義とは、金銭のやり取りの有無に関係なく取引が発生した時点で費用と収益を計上するものです。

売上の収入や、費用の支出額が確定した時点の日付で帳簿をつけます。そのため掛売りや掛仕入れなど、金銭のやり取りがまだ行われていなくても取引が確定しているならば計上することができます。

この考え方によって、毎月ではなく数カ月に一度の精算となりがちなリース料やレンタル料、水道料金なども毎月の会計に均等に配分して計上することができ、正確な損益計算が可能になります。

高額な資産の耐用年数に応じて取得費用を配分していく「減価償却」の会計処理も、この発生主義に基づいて行われています。

企業で採用されている会計方法のほとんどは、発生主義会計による複式簿記が採用されています。個人事業主の場合も、確定申告で青色申告特別控除を受ける場合は発生主義による複式簿記による必要があります。

収益・費用の認識基準の1つで、現金の収支とは関係なく、収益・費用の発生という経済的事実に基づいて損益を認識する考え方である。すなわち、財貨・用役の価値の増加という事実に基づいて収益、財貨・用役の価値の費消という事実に基づいて費用を認識する。しかし、今日の発生主義会計においては、収益の計上は、保守主義の原則により、実現主義の原則が適用される。

発生主義の売上計上基準は、会計上のものと税務上のものとで異なりますが、基本的には会計上のものに従うこととされており、実際には後述する実現主義に基づいています。


発生主義の原則

条文
すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。ただし、未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。
前払費用及び前受収益は、これを当期の損益計算から除去し、未払費用及び未収収益は、当期の損益計算に計上しなければならない。

解説
発生主義(accrual basis)は、費用や収益を現金の収支に基づいて認識する現金主義に対し、収益や費用を発生させる経済価値の変動の事実に基づいて会計処理を行おうとするものである。掛取引など現金を伴わない信用取引があった場合などに、正確な期間損益計算を実現するための基本原則である。
発生主義が適用される会計処理には以下のものがある。
費用の繰延(前払費用)
収益の繰延(前受収益)
費用の見越(未払費用)
収益の見越(未収収益)
固定資産の減価償却
繰延資産の計上
貸倒引当金の計上
退職給付引当金の計上


発生主義会計では、商品販売取引は一般的には三分法を使う。




現金主義

その名が示す通り、現金や預金の入出金の事実があって初めて取引が認められるものです。売ったものの代金を受け取ってから、買ったものの代金を支払ってからといった具合に、実際に現金のやり取りが終了してからの計上となるため確実で分かりやすく、不正会計の可能性が低くなります。

しかし、現金主義には会計上の不都合もあります。商品やサービス代金を前払いした場合、実際に対価が提供されるのはまだ先であっても当該期間の費用として計上しなければなりません。逆に、代金は後払いで商品やサービスはすでに提供されている場合であっても、代金を支払うまでは費用として計上できないことになります。

このように現金主義では、会社の経営実態を正確に、タイムラグなく財務諸表に反映することが困難になるのです。

事実上現金主義での会計は、資産や負債をほとんど抱えておらず取引はほぼすべて現金で行うような小規模事業者か、または企業内のごく一部の会計処理でのみ適用されていることが多くなっています。

収益・費用を認識する基準の1つであり、現金の収支という事実に基づいて損益を計上する方法である。すなわち、現金の収入によって収益を、支出によって費用を認識する。現金主義は、計算が確実で簡単であるが、信用取引が一般化し、固定資産の保有量も多い今日では、原則として用いられない。


実現主義

収益を確定する時点について、実際に代金やその他の等価物によって収益を得、実現した時点にすることを実現主義と呼びます。

このような仕方で収益を認識することは、販売したものに対する貨幣的裏付けのある対価を確かに受け取ったという事実に基づいているため、確実性のある収益のみを計上することができ、発生主義のマイナス点を補うものとなります。

企業会計の原則としても、収益の計上については実現主義で行うとされています。

販売の実現時点の考え方は業種やサービスによって異なります。 たとえば一般の販売業の場合、商品を発送または配送のトラックに乗せた時点を基準とする「出荷基準」や、商品が販売先に納品された時点とする「納品基準」、販売先が検収し、商品に問題がないことが確認された時点とする「検収基準」など、様々な実現時点の基準があります。

収益を認識する基準であり、収益が確実になったときに実現したものとして計上する考え方である。すなわち、予想による収益計上を排除する保守主義の原則の適用である。実現とは、広義にはある価値が他の価値にかえられることをいうが、収益認識における実現は、ふつう財貨または用役が販売され、対価として現金や売掛金などの現金等価物に形をかえることといわれている。その根拠は、①客観性・確実性、②資金的裏付けの存在などがあげられる。なお、収益実現の時期をいつにするかによって、①販売基準、②現金基準、③生産基準などがあるが、①が原則的な基準である。

前述の発生主義に基づいて経理処理を行えば、会計上は問題ないように見えるかもしれません。しかし、実際には全てを発生主義で処理すると、未実現収益は当期の損益計算に計上することはできないという損益計算書原則に抵触してしまいます。そこで、売上高の計上基準を発生主義よりも厳しくし、商品やサービスが実際に提供されたタイミングをもって収益に計上する実現主義という会計基準を適用します。

発生主義のように商品を受注したタイミングで計上すると、金銭的な裏付けがない状態で売上高を計上しがちです。費用や収益に関してはそれでも問題ありませんが、実現主義ではより保守的に実際に役務が提供され、その対価が取得されるという取引の実態があったことをもって売上高を計上します。取引の実現を判断する基準の種類には、出荷基準、検収基準、引き渡し基準などがあります。


保守主義の原則

六 企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。
「損失は予想すれども利益は予想すべからず」という思想はこの原則に立脚している。これは、貸倒引当金の手当や一部の資産に対して低価主義を採用して評価損を計上する一方、資産に対して原価主義を採用して評価益の計上を抑え、収益に対しては未実現利益の計上を抑えること等を指す。
これは、債権者の保護、配当や納税のための資金的裏付けのある利益を算出する必要があること、企業の経営維持の目的などのためである。 しかし、過度の保守主義は、期間損益計算を不適正にさせる結果となるため、真実性の原則に反して認められない。


売上の回収方法

取引先に商品やサービスを提供した時は、売上として帳簿に計上されます。計上する時期は、販売業は商品を提供した時点、サービス業はサービスの提供が完了した時点です。そして、売上を計上したら売上代金の回収を行います。回収方法は以下の3種類です。

・商品・サービスの引き渡しと同時に現金や小切手で代金を受け取る方法
・後日請求書を発行して代金を銀行に振り込んでもらうなどして受け取る方法
・事前に売上高となるべきお金を見越して前金や内金、手付けなどの名目で前受け金として受け取る方法

これからも分かるように、商品・サービスの引き渡し時期と代金の受取時期が同じこともあれば異なることもあります。


販売基準

実現主義の原則に基づく収益実現の時期をいつにするかについての基準の1つで、商品などが販売された時点で収益を計上する基準である。販売とは、財貨または用役が提供され、その対価として現金、売掛金などの現金等価物を入手する行為をいう。販売の具体的な時点には、商品を①発送(出荷)したとき、②相手方に引き渡したとき、③相手方が商品の検収を終わった時などがある。①は発送(出荷)基準、②は引渡基準(着荷基準)、③は検収基準と呼ばれる。