犬の末席

犬の限りを尽くしたのに。一人を噛み締める。

かすかな言葉の揺らぎを追い求め、見誤る。

──速度を抑える。地に伏せる。

体は震えたり震えなかったり。どっちでもいい。

人間よりも人間中心的な視線を人間に投げる。一旦は家畜化された種としての僕、解き放たれ野生へと還るオレ。ばうわうと進化心理学者が問う。お前たちはベストを尽くしたのか?

引きこもっていると空との接点が窓になる。そういったことを考えて二十年近く同じ窓を眺めていると、様々な印象がそこに去来した。やがて窓のイメージはディスプレイへと置き換わる。空と呼んでいたものが文字や画像、動画になる。

なぜだか野生へと還ってしまった犬が部屋の中に繋がれている。そういったことはよくある話だ。犬は空なんか見ない。犬は現象学を解さない。

「そして俺は」と続ける。

そして俺は政治的な取引をして野生の犬から人間に戻ったんだ。