風らしく川を滑り

風らしく川を滑り、山を揺れる。速度が十分に出ているからこそ。

人工的な構築物のうちいくつかを誰よりも舐め回したから、テクスチャについて全てを覚えている。変態的に家に住んでいたことが誇りだった。

風は靴を履かない。風は何も身につけない。

弾丸だって同じさ。

風は喉を持たないが、クウに吹き込むと音を鳴らすし、何か言っているようにも聞こえる。

しかし意味のある言葉は何も聞き取れない。所詮風。

風らしく都市の一番下から一番上の建造物まで瞬時に吹き上げる。その逆も行なう。風に意志はあるか?

風に意志はあるかと聞いている。あってほしい、とか祈りの構文は無効。あるか、ないか、どちらか。

もし人間だったら、「私」を使って語り始めるだろう。まだこれは私ではないから、何について語るのかはわからないが、やがて人間の形を取る風には意味や意志のようなものを認めていい気がする。

あの日あの場所で出会ったあの人はすごい速で笑っていて、風のようだった。何度も思い返す。

君が思うよりもずっと昔に僕ら生まれていた。数千年前もこうやって海を渡って太陽まで走っていたって思い出さない?